溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「章介、さん……」
喉を絞めつけられたような痛みが走った。顔に出さないように堪えていると、
「え、え、先輩の彼氏さんですか? あ、私、先行ってますね!」
違うと否定する前に、芽衣ちゃんはエントランスをくぐってしまった。彼女の後ろ姿をちらりと見やり、章介さんは襟元のネクタイをわずかに緩める。
「すまない。どうにか連絡を取りたかったんだが、ずっと監視されてて」
「どうしてここに来たんですか」
掠れそうになる声をどうにか絞り出した。胃がせり上がってきそうだ。
通行人が傍らを通り過ぎていく。会社の正面で話しかけられて、周囲の視線が気になって仕方がなかった。
消化しきれていなかった感情まで一気に暴れだしたみたいで、心臓がうるさい。
「話がしたいんだ」
「話すことなんて何もありません。帰ってください」
「俺の話を聞いてくれ」
章介さんの目は一重だけど大きくて小動物みたいに可愛い。笑うと漢数字の一みたいになくなってしまうその目が、私はとても好きだった。
「頼む、光希」
チリっと胸が焼けこげる。ねじれるような痛みを必死で押しこめて、私は息を吐いた。波たった感情を強引にならすように、肺の中の空気をすべて吐き出す。
「奥さんと、約束したんです」
まっすぐ章介さんを見上げた。優しい顔立ちを悲痛に歪ませて、彼は立ちつくしている。
「二度と私の前に現れないで」