溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
・
完全に不意打ちだ。本当にやめてほしい。
「西尾さん大丈夫すか。なんかすごいため息出てますけど」
昼休憩を終え業務に戻ったとたん、となりの席から声をかけられた。野村くんが整った顔を不安げにしかめている。私は無理やり頬を持ち上げた。
「大丈夫です。制作部の乃木さんから来てたメールの件ですけど、配送手続きしますか?」
「え、はい、お願いします」
野村くんからの視線をびしばし感じながらパソコンに向き直る。もしかすると芽衣ちゃんから余計なことを聞いているかもしれない。そう考えるたびに、キーを打つ手が止まる。
無心。無心になれ。
ふうっと息をついて、画面に集中した。ミスタイプに気づき、デリートを押したつもりがさらに別のキーを叩いてしまう。
ああ、もう!
画面を保存して、私は席を立った。
化粧室の洗面台で息をつく。磨き抜かれた鏡には、黒のボウタイブラウスに髪を後ろでひとつにくくった、こわばった顔の女が映っている。
眉間に指をあてて、皺を伸ばすようにさすった。
まさか、こんなに動揺するなんて。
章介さんと最後に会ったのは、まだ蒸し暑い夏の日の夜だった。
つまり、二ヶ月とちょっと前。
具体的な数字を思い起こして愕然とした。まだそれだけしか経っていなかったのか。