溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
背が高い男性は、総じて首も長い。彼は全体的に見ても、そこらの男性アイドル歌手よりもよっぽど優れた見た目をしている。確か、部長と同じ有名私立大学の出身で、頭も良かったはずだ。
瀬戸生吹はおそらく、選ばれた人間にしか許されないような充実した日々を送ってきたに違いない。仕事も日常生活も、きっと恋愛においても。
対して私は、就職して実家を出るまで年の離れた弟と妹の子守を任せられ、友達と遊び歩く機会も少なく、二十八年間生きてきて付き合った異性はひとりだけ。
華美な格好が苦手だから服装はモノトーンが多いし、髪は仕事の邪魔にならないようにいつもひとつに束ねている。
こんな地味で目立たずお局と化しつつある私に、瀬戸生吹みたいな華やかな人が、いくら追い詰められて正常な判断力を欠いたからといって、『付き合って』なんて言うはずがない。
やっぱりあれは何かの間違いだったのだ。
「飯は?」
「えっ」
「夕飯、食った?」
カチカチとマウスを操作しながら、瀬戸くんは相変わらず背中を向けたまま言う。
「いえ……」
短く答えて、私はパソコンに向き直った。画面の印刷ボタンをクリックする。野村くんがまとめた穴だらけのプレゼン資料を作り直したものだ。
静かすぎてどことなく気詰まりだったオフィスに、コピー機の振動音が響きはじめる。
印刷した書類をファイリングして帰り支度をしていると、「西尾」と声をかけられた。どことなくかすれた、甘さのある声に、どきっとする。