溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「よく考えてくださいよ! この西尾先輩ですよ!」
 
ホワイトボードの前に所在なく立ちながら、となりの彼女を見やる。長机には各部署の女性従業員たちが座って、一様にぽかんと芽衣ちゃんを見ていた。

「この馬鹿がつくほど生真面目で、融通のきかない先輩がですよ? 不倫なんていう器用なこと、できると思いますか!?」
 
芽衣ちゃんの大音量は、ドアの外まで聞こえているに違いなかった。デリケートな話題を当人に確認もせずぶちまけた彼女は、私よりも必死な顔をしている。

「あんな内容のないイタズラメールでざわつくなんて、大人げないですよ!」
 
オフィスで絶叫するあなたもだいぶ大人げないわよ、という目で何人かが芽衣ちゃんを見る。それでも、彼女たちは周囲と目を合わせながら、少しずつ口を開きはじめた。

「まあ、そうよねえ。光希ちゃんだもんねぇ」

「私は最初から信じてなかったけど。だって西尾さんだもん」

「そうよ。だいたい八年付き合ってる彼氏がいるじゃない」
 
総務部の先輩社員が気づいたように私を見る。芽衣ちゃんが私を振り向いた。

「そうですよ。私見ましたもん、西尾先輩の彼氏」
 
とたんに全員の視線が集まって、私は首を縮めた。それから、いい機会だと思い直す。

「あの、実は、その彼とは二ヶ月前に別れました」

「え、そうなんですか!? じゃあこのあいだの優しそうな人は……」
 
目を丸める芽衣ちゃんに、苦笑いを見せる。

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