溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「元カレだけど、たまたま近くに来て寄っただけみたい。今はもう関係ないの」
「そうだったんですか……」
全員が口をつぐんで、会議室がしんみりしてしまった。
「まあ、男と女にはいろいろあるわよねぇ」
ことあるごとに私に「もうすぐ結婚?」と訊ねてきていた総務部の先輩は、ほっとしたような気まずいような顔で目を逸らす。
昼食時の会議室で妙な発表をしてしまったと、今さら顔が火照ってくる。それでも気持ちはすっきりしていた。
「じゃあ西尾さん、今度合コン誘いますね」
他部署の後輩が言って私は笑みを返した。それをきっかけに、彼女たちは他愛のない話をはじめる。
いつもの雰囲気が戻ってほっとしていると、芽衣ちゃんがマグカップを持って会議室から出た。あわててあとを追いかける。
「芽衣ちゃん、ありがとう」
給湯室で声をかけると、彼女はカップにお湯を注ぎながらつまらなさそうに答えた。
「べつに、くだらないメールひとつで踊らされてる人たちが哀れだっただけなんで」
「それでもすごく助かった」
芽衣ちゃんが振り返った。ティーバッグの紐をつまみながら、可愛らしい顔をふいに緩める。
「困ったことがあれば協力するって言ったじゃないですか。だから先輩も、チュウちゃんとのこと、よろしくお願いしますね」
なるほどそういうことか、と思わずうなった。合理的な彼女らしい。
それでも、変に恩を売られるよりずっとましかもしれないと思う。
なによりとても潔い感じがした。まるで、私にお礼を言わせないための発言みたいだと思ってしまうほど――