溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「知ってたの? あのふたりが付き合ってること」
「いや、バレバレだろ、あれは」
確かに、と頷いてしまう。
私たちは今日、別々に会社を出てこの店の前で落ち合ったけれど、彼らは普通に会社のエントランスで待ち合わせをしていそうだ。会社の周辺なんて、誰に見られているかわからないのに。
そこまで考えてから、一重まぶたの優しい顔を思い出した。
「結局、あのファックスとメールは、誰の仕業だったのかな……」
「うちの家の関係者かもしれない」
思いがけない言葉にはっとする。瀬戸くんは厨房に目を向けてつぶやいた。
「光希のことを調べたんなら、きっと昔の男のことも知ってるはずだから」
「まさか……大樹くんが?」
蛇を思わせる目つきを思い出した。彼の意思ではなかったにせよ、母親に命令されてやった可能性もあるのだろうか。
興信所だか探偵だか知らないけれど、私の家族のことを簡単に調べ上げてしまったのだから、章介さんのことはもちろん、会社の共有アドレスなんてあっというまに分かってしまうだろう。
「まだ断定はできない。心当たりがいくつかあるってだけで」
グラスをテーブルに置いて、彼は私を見た。
「ごめんな、本当に」
瀬戸くんは、男の人のわりにとても素直に気持ちを口にする。
ごめんとか、ありがとうとか、大人になればなるほど言葉にできなくなるのに、彼はそのときの感情のまま、臆することなく気持ちを表出させる。
章介さんはどうだっただろうと考えて、すぐさま打ち消した。
昔の彼氏と比べるなんて、瀬戸くんに失礼だ。