溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「もう、歩きづらいから」
ドアが開き、逃げ出すように先に降りる。
外気に解放された共用廊下は、ふたり並ぶといっぱいだ。懲りずに触ってこようとする瀬戸くんから逃れて歩き出した私は、すぐに足を止めた。
403号室。私の部屋の前に、人影が見える。
「光希!」
心臓を直接掴まれたみたいに、動けなかった。
駆け寄ってくる彼のアクのない顔に、目眩を覚える。
「ここで……何をしてるんですか」
「すまない。どうしても話をしたかったんだ」
私の後ろで息を呑んだような気配があった。そんな瀬戸くんを気にすることもなく、章介さんは私に頭を下げる。
「頼む。話だけでも聞いてくれ」
「どいてください」
声が震えそうになって、唇を噛んだ。章介さんの目が切なげに歪む。その横を、私は瀬戸くんといっしょに通り過ぎる。そのとき、
「待ってくれ光希」
手を掴まれた。章介さんの節の目立つ指が、すぐさま私の指に絡む。
「おい、あんた」
瀬戸くんを無視して、章介さんは私に訴えた。
「俺たちの八年間はなんだったんだ。光希にとっては、そうやって簡単に切り捨てられる時間だったのか!」
それは、私の一番脆いところを殴りつけるセリフだった。
章介さんの手の感触が、指先から流れ込んでくる。