溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「お乗りになって。ご自宅までお送りします」
はっと見ると、運転席の後ろに和服姿の女性が座っている。
瀬戸くんのお母さん――杏子さんは、切れ長の鋭い目を前に向けたまま、有無を言わさぬ口調で言った。
「大事な話もありますから」
くすっと笑う声に目を向けると、助手席はハーフ顔の女の子が占めている。瑠璃さんだ。
「し……失礼します」
私が乗り込むと、車は青年を歩道に残して走り出した。
「小さな会社ね」
音のない車内につまらなそうな声が落ちる。闇に沈んだ杏子さんの顔を、対向車のライトがすれ違うたびに浮き上がらせた。
「あんなところに勤めてるから、おかしな娘が寄ってくるのね」
声に厳しさが混じる。私は太ももに手を置いたまま身動きができなかった。シートベルトがきついわけでもないのに、体中を締め付けられているような気がする。車内の空気がまるごと私を拒絶しているみたいだ。
「単刀直入に申し上げます」
車が大通りを右折する。背もたれによりかかっていても、彼女の背筋はびしりと伸びている。背中に定規でも仕込んでいるみたいだ。