溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「生吹と別れてちょうだい」
助手席の瑠璃さんがくすりと笑った。杏子さんが放ったセリフは、いつか瑠璃さんがテラス席で放ったのと同じ言葉だった。
違うのは、瑠璃さんが微笑んでいたのに対して、杏子さんは私と目線すら合わせず、鋭い瞳を正面に向けたままだということ。
私は短く息を吐き出した。胃のあたりに力をこめて、きっぱり言い放つ。
「お断りします。生吹さんと別れるつもりはありません」
その答えを予期していたように、杏子さんは一流ブランドのロゴがついたハンドバッグから厚みのある封筒を取り出した。
「もちろん、ただでとは申しません」
そこではじめて彼女は私を見た。
薄闇のなか、白目だけがやたらと明るい。蔑むような目に背筋がぞっとする。
「ここに百万円あります。どうぞお受け取りになって」
封筒を差し出され、頭の芯がカッとしびれた。怒りが瞬間的にこみ上げる。
「そんなもの、いりません!」
彼女は驚いたように目を丸めた。
「まあ、足りないとおっしゃるの?」
「違います! お金なんて欲しくありません!」
呼吸が乱れそうになって息継ぎをする。眉間がじんじん痺れて私は目を閉じた。噴き出しそうになる熱をどうにか押しとどめる。