溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
付箋の指示通りに駅前で待っていると瀬戸生吹はすぐに姿を現し、私を行きつけだというパスタ屋に連れて行った。
隠れた名店らしく、こぢんまりとした外観からは想像できないくらい美味しかったけど、夜の九時過ぎでも混んでいて、カウンター席に通された私たちはひたすらパスタを口に運んだ。
店内ではほぼ会話がなく、お店を出たところでようやく口を開いた彼の言葉は。
――西尾の家、行っていい?
突然のことに驚いて、なぜですか、と訊いたら、臆面もなく答えたのだった。
――彼女の家に行きたいと思うのに、理由が必要?
真顔の彼に、断りの言葉が出てこなかった。
瀬戸生吹には、何をしでかすかわからない怖さがある。またビルの屋上にのぼられたら、たまらない。
という流れで今に至る。
ベッドとテーブルと本棚といった必要最低限のものが置かれた私の部屋で、瀬戸生吹は異質な存在だった。
微かに漂う香水とハンガーにぶら下がった彼のネイビーのジャケット。緩んだネクタイ。覗いた喉元からフェロモンが漂っていて、油断すると絡め取られそうだ。
自分の部屋なのに、まったく落ち着かない。