溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「何不自由ない生活や与えられた物をすべてなげうつなんて、よっぽど意志が強くなきゃできない。もがきながらでも、そういう生き方をしようとしてる生吹さんはかっこいいです」
自分の考えを真正面から否定されて、頭にきているのかもしれない。物事を一線引いて見ているような、冷めたところのあった大樹さんの顔が、みるみる赤くなっていく。
「たしかにあなたは要領がいいのかもしれないけど、それでも私は、不器用に生きてる生吹さんのほうが、ずっと好きです」
「なによ! 勝手なことを言わないで!」
声を荒げたのは瑠璃さんだった。
「そりゃたしかに生吹はかっこいいけど、大樹だってね! 大樹だって……油絵とか、すごく上手いんだから! 賞とか取ってるんだから!」
ずれた主張をしながら、彼女は私にしがみついてきた。150センチほどしかなさそうな小柄な彼女は、細い両腕を振り上げて子供みたいに私の胸を叩いてくる。力は強くないけれど、連続殴打は地味に痛い。
「ちょ、瑠璃さん。痛――」
そのとき、懐かしい匂いに包まれた。
瑠璃さんから引き剥がすように、背後から回された腕が私を抱きしめる。
「光希」
心臓が大きく脈打った。
私の髪を滑り落ちた瀬戸くんの声。胸がしびれて、思わず涙がこみあげる。
「生吹さん」
名前を口にすると、ますます強く抱きしめられた。