溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「飛び降りようとしてた俺を西尾が止めて、なんでもするっていうから、付き合うことになって、そんで今、彼女になった西尾の家にいる」

時系列に沿ってまとめられた事実に、「そうなんですけど」と答えかけ、「いや、そうじゃなくて」と言い直した。

「なんでもするじゃなくて、できることならするって言いましたし、そもそも彼女って……承諾してませんし」

「俺と付き合うことは、西尾のできる範囲には含まれないってこと?」

不意に右手にぬくもりが流れ込んだ。瀬戸生吹の長い指が、くすぐるように私の薬指をなぞっていく。なまめかしい動きに、背筋が震えそうだ。

「だ、だって、そんな急に。これまでほとんど接点がなかったし、瀬戸くんは私のこと、よく知らないでしょう?」

「――西尾光希(みつき)、五月生まれの二十八歳。無遅刻無欠勤の生真面目な営業アシスタント。身長は百六十前後。八年付き合ってる彼氏がいる」

そこまで言って、彼は「いや」と言い直す。

「彼氏がいた、かな」

右手に指が絡み、きゅっと握られた。近づいた距離に、心臓が音を立てる。

「ずっとはめてた指輪が、一か月前からなくなってる」

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