溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
動けないでいる私を言葉の繭でくるむように、彼は淡々と続ける。
「西尾は俺を止めてくれた。でも誰でもいいと思ってあんな提案をしたわけじゃない。ちゃんと選んでるよ」
「で、でも。瀬戸くんならもっと選べるでしょ? 可愛い子とか、優しい子とか」
仕事に疲れ果てて死にたいと思うのなら、もっと彼を癒してくれるような適任の子がいるはずだ。
「可愛いだけじゃ、渡り合えないから」
「え……?」
「まあ、いいや」
すくっと立ち上がり、瀬戸くんはジャケットを羽織る。生まれ持った華やかさなのだろう、たったそれだけの動作でも、やたらと絵になる。
「今日は帰るよ」
玄関に向かう背中をぽかんと見つめたあと、私はあわてて立ち上がった。
「あ、駅まで道がわかりづらいから、送ります」
革靴を履いた瀬戸くんが振り返る。
見慣れた自宅の玄関に、女子社員から絶大な人気を誇る敏腕同期の瀬戸生吹がいる。まるでおとぎ話のように現実味がなくて、ちょっとおかしい。
やっぱり、この人と私が付き合うなんて、現実的じゃない。