溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「光希」
「え」
名前を呼ばれて驚く間もなく、引き寄せられた。
唇が合わさる直前、思い直したように彼が身体を引く。
何かを考えるように数秒静止して、瀬戸生吹は私の前髪をかきあげ額に唇をつけた。
瞬間的に重なった体温が、波紋のように全身に広がっていく。
顔を離すと、彼は薄く笑いながら節ばった指先で私の唇に触れる。
「今度は、こっちにするから」
じゃあ、と彼は玄関の扉を開いた。
軋んだ音を立てて扉が閉まる。
夏の終わりを感じさせるしめった風が、座り込んだ私をからかうように、部屋の中を流れていった。