溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
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九月に入ってしばらくは晴天が続いていたのに、台風が複数発生したこともあってここのところ荒れた天候が続いていた。今日は幸い傘の出番はなさそうだけれど、厚い雲が垂れ込めた空のように、私の心もどんよりと曇っている。
「いやーほんと、助かっちゃいました西尾さん」
取引先企業のエントランスから一歩出たとたん、野村宙也が晴れ晴れとした顔で言う。
「それにしても不思議だなー」
「本当にね。野村くんがイリュージョンを使えるなんて思わなかった……」
皮肉を言ったのに、能天気王子様は「ですよねえ」と笑いかけてくる。
「西尾さんに言われてちゃんと鞄にしまったはずなのに、机の下に落ちてるなんてなぁ」
手元をちゃんと見てないからそうなるの、と言おうとして、私はこの子の母親じゃないと、口をつぐむ。本当に世話の焼ける子だ。
「野村くんて、今までよく世間を渡ってこれましたね」
「あはは、俺って人に恵まれてるんですよね~」
彼は身をかがめ、子どもみたいな顔で私を覗き込む。
身長は百七十五センチ前後というところだろうか。瀬戸くんのほうがいくらか高い。でも並んで歩けば、すれ違う女性がちらちらと視線をよこしてくるのは同じだ。
「俺自身はダメダメですけど、周りの人がいつも助けてくれるんですよね」
西尾さんみたいに、と無邪気に微笑まれて、ため息が出た。