溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「私はアシスタントなので、営業をサポートするのは当然ですが……今回みたいな不注意はこれっきりにしてください」
取引先との打ち合わせに必要な書類をまるごと会社に置き忘れた野村宙也は、ちっとも反省していない顔で「すみませーん」と頭を下げる。私はもう一度ため息をついた。
「野村くんは人当たりがよくて男女問わず人から好かれやすいです。営業をする上で、それはとても強い武器になると思います」
彼が目をぱちくりさせる。それを私はじっと見上げた。
「でも――」
実際に、野村くんは上司から可愛がられているし、顧客受けも悪くない。ただし、「こいつはしょうがないやつだな」と、どこか引いて見られているのも事実だ。
「周囲に甘えすぎていたら、本当の意味での信頼は得られません」
本来なら、営業マンに必要な書類を持ったかどうか尋ねるなんて、失礼だ。そんなのは社会人として当たり前のことなのだから。母親じゃあるまいし、持ち物の心配なんて……。
そう思ってから、愕然とした。自分が野村くんを母親目線で見ていることに気がついたのだ。
三人姉弟の長子だったとはいえ、私も無駄に世話を焼き過ぎなのかもしれない。
気が付くと、となりを歩いていた野村くんがいない。振り返ると、彼は歩道の真ん中に突っ立っていた。
「どうしたの?」