溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
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五階建ての社屋には食堂がない。途中で昼を食べていくという野村くんと別れ、駅前の売店でお弁当を購入して会社に戻った。
ちょうど昼食時で、私が降りたエレベーターはランチを求めに行く社員たちですし詰め状態だ。人が減ったぶん、向こうに見えるフロアは閑散としている。エレベーターホールとフロアはガラスの仕切りで隔てられていて、ホールからフロアの奥まで見通せるようになっていた。
IDカードをかざしてドアをくぐり、デスクで買ってきたお弁当を広げようとしたところで、「西尾」と呼ばれた。振り向くと、会議室の前で瀬戸生吹が手招きをしている。
「ちょっと来て」
「あ、はい」
五人も入ればいっぱいになる小会議室では打ち合わせが行われていたらしく、ホワイトボードに文字や図形がびっしり書き込まれていた。それを消しながら、瀬戸くんは横目で私を見る。
「野村は?」
「今、お昼に行ってます」
文字をきれいに拭き取ると、瀬戸くんは振り向いた。イレーサーがカタンと音を立てる。
まっすぐ注がれる目線に、心臓が騒いだ。こうやって向き合うのは二週間ぶり、彼が私の部屋にやってきたとき以来だ。
瀬戸生吹は忙しい。いつも顧客先を飛び回っていて社内にいる時間はわずかだし、聞くところによると土日も返上して接待ゴルフやらなんやらで仕事をしているらしい。
いつかの屋上での吐露を思い出す限り、彼は営業の仕事が好きではないらしいから、疲労は相当なものかもしれない。それでも嫌な顔ひとつせず、彼は普段通りに働いている。
でもやっぱり……。
もともと余計な肉のない精悍な顔が、二週間前よりさらにやつれた気がする。