溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「大丈夫、ですか?」
「え?」
凛々しい眉が不思議そうに持ち上がった。はっとして、私はうつむく。
「いえ……なんでもないです」
あまり差し出がましいことは言えない、と思った。
瀬戸くんとの距離感はむずかしい。同期とはいえ、今までほとんど話したことがなかったのだ。
「あの、ご用件はなんでしょうか」
頭で考えるほど、硬い態度しか取れなくなる。肩を縮めていると、彼が言った。
「大口の仕事が入ったから担当案件を引き継ぐように上長命令があったんだ。野村にいくつか回したい。あいつのスケジュールってどうなってる?」
ビジネスライクな口調だった。いくらか安心して、私は頭の中にスケジュール表を思い起こす。
「ええと、来週の納品を済ませれば余裕が生まれると思います。詳細が必要なら今確認して」
「いや、いい。わかった」
遮るように言って、瀬戸生吹は黙り込む。じっと見下ろされて、私は視線を逸らした。
彼と二人きりだと、変に緊張する。はやくここから出たい。
「ご用件はそれだけですか」
顔を上げた瞬間、至近距離に瀬戸くんがいて悲鳴をあげそうになった。
同じ整った顔でも、野村くんに見られて緊張することはないのに、瀬戸生吹に見つめられると身体が動かなくなる。
「今夜、空いてる?」