溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
気のせいか、瀬戸くんの声が熱を帯びた気がした。いつかの唇の感触がふいに思い出され、全身を一気に血が駆け巡る。
「こ、今夜は……」
答えかけて、頼りない後輩くんのふにゃっとした笑顔がよぎった。
「すみません、予定が入ってます……」
「予定?」
突っ込んでくる気配はないけれど、彼の目線は私をとらえたままだ。もやもやとした罪悪感がこみ上げる。ここで言わないと、あとでバレたときに恐い気がする。
「ええと、野村くんと飲むことになってて」
瀬戸くんのまぶたがぴくりと動いた。
「野村と?」
「はい。後輩指導してくれって、頼まれて」
「……ふたりきりで?」
じりじりと詰め寄られて、壁際まで追い込まれる。普段通りの涼しげな表情をしているのに、やたらと迫力があった。怒っているようには見えないのに、自分がひどく悪いことをしているような気がする。
「確認なんだけど、西尾は俺と付き合ってるよな?」
「えっと……」
そうでしたっけ?
口にはできず、ただ引きつった笑顔を返す。至近距離で貫くような視線をよこしていた瀬戸くんは、大きなため息をこぼした。