溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「西尾は……俺を警戒してる」
広い肩が落ちて、あれっと思った。めずらしい光景だ。いつも自信満々、とまではいかなくとも、瀬戸くんは背筋をぴんと伸ばしているイメージしかなかったから。
あ、でも屋上では背中を丸めていたっけ……。
「なんだよ、どうすりゃ信用してくれるんだ」
さりげなく手を取られて心臓が音を立てた。彼の指は長くてきれいだけど、どこか弱々しい。
完璧に見えた同期の彼の、裏の顔。 強さと弱さが混在する瀬戸生吹。
この人も私と同じ、弱い人間なのかもしれない。
――俺の生きがいになってみせてよ
あのときの瀬戸生吹の声は、綿菓子でつむいだ細い糸のようで、風に溶けてあっというまに消えた。
甘くて儚い言葉は、たしかに私の胸をとらえた。
だけど私は、たったそれだけで自分のすべてをさらけだせるほど、純粋でも、素直でもなくなってしまったのだ。
「瀬戸くんは、大事なことを忘れてる」
私の言葉に、彼が顔を上げる。
「私は……もっと、面倒くさい女なんです」