溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
・
野村くんが予約していた店は、会社から徒歩十分のところにあるこじゃれたダイニングバーだった。広い店内を、淡いオレンジの光が雰囲気たっぷりに照らしている。
奥のソファ席に案内されるやいなや、後輩王子くんは形のいい唇を曲げた。
「なんで瀬戸さんがいるんすかぁ」
「ばか。後輩指導ならアシスタントじゃなくて俺に頼むのが筋だろ」
ジャケットをハンガーにかけながら瀬戸くんが言うと、後輩くんはもごもごと答える。
「そ、それはそうですけど、でも今日は西尾さんにお詫びも兼ねてて」
「お詫び?」
ソファ席に腰を下ろしながら、瀬戸くんが鋭い視線を向けた。真正面から睨みつけられ、野村くんはしどろもどろになりながら事の顛末を話す。
「資料を持ってきてもらったって? お前、まだそんなミスしてるのか」
「う……すみません」
さすがの野村くんも教育担当だった瀬戸くんには頭が上がらないらしい。しおれている様が見ていられなくて、私はつい口を挟む。
「ま、まあ、野村くんも反省してるんだし」
「ほんと、チュウちゃんてば間抜けなんだから~」
からからと笑い声を立てる彼女を、野村くんがじろりと見る。
「ていうか、なんでメー子までいるんだよ」
本当に、と心の中で相槌を打ってしまった。