溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
私から無理やり時間と店の場所を聞き出した瀬戸くんは、なぜか待ち合わせ時間に市原芽衣子を伴って現れた。
四人掛けのテーブル席は奥から瀬戸くんと芽衣ちゃん、その正面に私と野村くん、という並びで座っている。
「瀬戸さんに誘ってもらえるとは思わなかったですぅ」
カシスオレンジを一杯飲んだだけで真っ赤になった芽衣ちゃんは、実際に酔っているのか、それともアルコールの力をあますところなく使うつもりなのか、早々に目をとろんとさせ、瀬戸くんにもたれかかっている。
「瀬戸さんてぇ、意外と筋肉質なんですね」
腕まくりをした瀬戸くんの右腕に絡みついてきゃっきゃとはしゃぐ彼女は、よく見ると首まで真っ赤だ。オレンジの照明だと顔色がわかりにくい。
「芽衣ちゃん、ちょっとお水飲もうか」
「えー大丈夫ですよぉ。私酔ってないですもん~」
それが本当に酔ってなくて演技だったら、あなたは女優になれる、と心のなかで唱えていると、
「市原、飲んどけ。ほら」
瀬戸くんから水を渡されると、彼女は感激したように目を潤ませた。
「やーん、瀬戸さん、優しいぃぃ」
あれ、なんだか胃のあたりがもやもやする。食べ過ぎかな、と私はテーブルの下でこっそりお腹をさする。
「ねーねー瀬戸さぁん。忙しすぎて彼女がいないって噂、本当ですかぁ?」
芽衣ちゃんの舌足らずな声に、むせそうになった。
「あ、それ俺も聞きたーい。瀬戸さんって私生活が謎すぎ。今日みたいな会社と関係ない飲みに参加するのもめずらしいんじゃないすか」
芽衣ちゃんを振りほどくでもなく、瀬戸くんはグラスを傾ける。目が合って、思わず逸らした。