溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「え、えー、彼女いるんですかぁ? 瀬戸さん」
すかさず芽衣ちゃんが食らいついた。あからさまな好意をものともせず、瀬戸くんは静かにグラスを傾ける。
どうでもいいけど、芽衣ちゃん、さっきから瀬戸くんの腕に胸を押し付けてない?
優良物件を確保するために使えるものはすべて使えというスタンスの彼女に、呆れを通り越して感心してしまう。顔も可愛いし胸もある。そんな芽衣ちゃんにこれだけぐいぐい来られたら、私が男だったらひとたまりもない。
「彼女、いるよ」
芽衣ちゃんの悲鳴と野村くんの驚きの声が重なった。私は皿に箸を伸ばしたままフリーズする。
なんとなく目を上げられなかった。ここで視線が絡んだら、絶対に余計な感情が顔に出てしまう。
「えーショックうぅ。彼女さん、どういう人なんですかぁ?」
湿った声で、でもやっぱり瀬戸くんの腕から離れないまま、芽衣ちゃんが言う。
「いつから付き合ってるんですかぁぁ」
「付き合ってるっていうか……まだ俺の片想いかも」
「えっ」
二十五歳のふたりが、同時に目を見張った。
「瀬戸さんが、片想い……?」
「ああ。同い年なんだけど、もしかしたら彼女、年下のほうが好きなのかも」
フォークを取り落としそうになる。目を上げると、瀬戸生吹はしっかり私を見ていた。どことなく不機嫌そうに唇を結びながら。
な、なに、その目!
「ええー、なにその彼女、ありえない! 瀬戸さんを差し置いてぇぇ」
きいいと歯を食いしばる芽衣ちゃんに、「ほんとだよな」とさりげなく同調し、瀬戸生吹はわざとらしくため息をつく。目線はしっかりこちらに向けたままだ。