溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「うわ、美味しい」
厚みがあるのに柔らかく、肉の味わいが濃厚なのに後味はあっさりしている。瀬戸くんが私のグラスにビールを注いでくれた。
「西尾は、仙台はじめて?」
「うん、念願だった牛タン食べられて、うれしい」
肉の美味しさに思わず子供みたいな口調になってしまった。
目を上げた瞬間、瀬戸くんが端正な顔をふっと緩める。
思いがけない表情に、私はあわてて顔を伏せた。心臓が、ばくばく鳴っている。
反則だ。そんなふうに、優しげに笑うなんて。
この胸の動悸は、きっとアルコールのせい。そう思いこもうとしていると、彼が店内を見回してつぶやいた。
「ここの牛タンがいちばん美味いんだよ」
「瀬戸さんすごい! よく知ってますね」
「相川社長にいろいろ連れていかれたからな。やっぱ仙台来たなら牛タンは食べないと」
「それで連れてきてくれたんですね。瀬戸さんやっぱり優しいですぅぅ」
すっかり回復したらしい芽衣ちゃんが、いつもの調子で瀬戸くんに話しかける。彼らの会話を聞きながら、私はひたすら肉を咀嚼した。
胸の高鳴りが一刻も早くおさまるように、なるべく瀬戸生吹を視界に入れず、肉ばかり見ていた。