溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
混みあった車両のドア脇に彼を立たせ、周囲の乗客から守るように正面に立つ。顔を上げると、彼はうつろな目で私を見下ろしていた。
「悪い、ビール飲んだら回ったみたいだ」
「どうして無理するんですか。牛タン屋なんて寄らずにすぐに帰ればよかったのに」
「あの店に、光希を連れていきたかったんだ……」
掠れるような声に、心臓がぎゅっと締まった。つらそうに目を閉じる瀬戸生吹の長いまつ毛や、形のいい唇に、鼓動が早くなる。
なんなの、と心の中でつぶやいた。
なんで、あなたはそんなに、まっすぐ私にぶつかってくるの。
結局、瀬戸くんの自宅はわからないまま、私は自分のマンションに帰ってきた。
四階でエレベーターを降り、彼を支えながら廊下を歩いて三つ目のドアに鍵を差し込む。
電気を点けてから短い廊下を進み、瀬戸生吹のジャケットを脱がせてベッドに寝かせた。少し考えてからベルトを抜き取り、ホックだけを外しておく。
本当はしわになるから下も脱がせたほうがいいのだろうけど、さすがにそこまで踏み込む勇気はない。