溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
私と付き合いはじめたころの章介さんは、確かに独身だった。でも、彼は私の知らないところで結婚し、子どもを作っていた。私は、自分がずっと「浮気相手」だったことに気が付かなかったのだ。
「八年も無駄にしてたなんて……私、本当にバカで……」
ローテーブルに置いた右手が、ぎゅっと握られた。瀬戸生吹は私が話をしているあいだもずっと、私の手を優しく包んでくれていた。
「それが二ヶ月前の話?」
こくんと頷く。忘れたはずの痛みが、また胸の中をじりじりと焦がし始める。
「今考えると、おかしいところはたくさんあった。電話しても絶対に出ないで、必ずかけ直してきてたし、結婚しようなんて言うわりに親御さんに会わせてくれなかったし……」
週休二日制のサラリーマンなのに、週末に一緒に出かけられることはほとんどなかった。
もしかすると、私は考えないようにしていただけかもしれない。不自然だなと思うことがあっても、勝手に良い方向に考えて、真正面から物事を見ようとしていなかっただけかもしれない。
章介さんが醸し出す大人の落ち着いた雰囲気は、なんのことはない、ただの既婚者の余裕だったのに。
だからこそ、奥さんからすべてを聞かされて、私は空っぽになってしまった。