溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


章介さんと過ごした八年間をまるごと失い、騙されていたことにも気付かなかったバカな自分が恥ずかしくなった。振り返れば自分にはなにも残ってなくて、心底死にたいと思った。
 
その気持ちが抑えられたのは、弟が泊まったときに置いていった漫画のおかげだ。まったく別の世界に逃げこむことで、私の心は救われた。でも、私自身が空っぽであることに変わりはない。

「私、瀬戸くんが思ってるほど、しっかりなんてしてない。馬鹿で地味で可愛げもなくて」
 
声が震えそうになって、一度息を吐き出した。瀬戸生吹の黒い瞳は、まっすぐ私を見ている。

「私は、瀬戸くんに想ってもらえるような人間じゃないの……」
 
右手に指が絡み、びくりとする。彼は私の手を口元に持っていった。

「今の話聞いたら、ますます気持ちが固まった」
 
ほんの少しかすれた、甘さのある声。ぶれない視線とあいまって、私を貫く。

「そうやって一途に相手を想う心を持ってる。たとえ嫌な部分から目を逸らすためだったとしても、想いを貫くことは簡単じゃないし、誰にでもできることじゃない。それだけ光希が大人で、強いってことだろ」
 
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