溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「瑠璃(るり)さんからのお誘いにまだ返事をしていないんですって? 篠宮の奥様がずいぶん気にされてたそうよ」
お母さんの言葉を聞いたとたん、彼の顔が曇った。草でも食まされたような苦い表情でぽつりと答える。
「……返事はしたよ。ちゃんと断った」
「まあ、仕事が忙しいの? 婚約者からのせっかくの誘いを断るなんて」
思いがけない単語が耳に入る。その瞬間、瀬戸生吹は声を荒げた。
「婚約者じゃないだろ! 勝手に決めるなよ」
「どうして? お見合いを散々断ってきたのは、篠宮のお嬢さんに心を決めてるからなんでしょう」
「違う! どうしてそうなるんだ」
「瑠璃さんなら申し分ないじゃない。家柄も器量も、なによりあなたのことを昔からよく知っていてくださってるし」
わけがわからず固まっている私の正面で、瀬戸くんのお母さんは優雅に紅茶をすすっている。そんな彼女を苛立たしそうに見て、瀬戸生吹は言い放った。
「何度言えばわかるんだ。結婚相手は自分で決める」
ふいに肩を抱き寄せられ――
「俺はこの人と一緒になるから!」
「えっ」
杏子さんと私の驚きの声が重なる。
「せ、瀬戸くん?」
彼の凛々しい眉は厳めしく中央に寄っている。これまで見たことがないような厳しい表情だった。
痛いくらい強く私の肩を抱き寄せているのに、その手はかすかに震えている。