溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「俺は光希と結婚します」
改めて言う息子を一瞥して、杏子さんは紅茶のカップをゆっくりとテーブルに置いた。
「西尾光希さんとおっしゃったわね」
つり上がり気味の目が獲物を吟味するかのように細められ、私は居住まいを正す。
まるで入社試験の最終面接で役員を前にしているみたいだ。わけのわからない状況に巻き込まれて戸惑っているはずなのに、この場面をくぐり抜けなければ、と思ってしまう。
「どんなご家庭で育ったのかしら。お父様とお母様は何をなさっている方? ご兄弟はいらっしゃるの?」
矢継ぎ早の質問に怯みそうになりながら、ひとつずつ答えていく。
「出身は千葉の富津市です。父は公務員で母は結婚するまでは高校で教鞭をとっていました。八歳年下の弟と十歳年下の妹がいます」
「……そう、もういいわ」
彼女は表情を変えず、氷のように言い放つ。
「お引き取りください」
「母さん!」
「光希さん、うちはね主人は小さな病院の院長ですけど、私のほうは旧華族の流れを汲む家に育っているの。だから生吹の結婚相手にも良い家柄のお嬢さんに来ていただこうと思っているのよ。悪いけど、あきらめてちょうだい」
瀬戸生吹が顔色を変えた。