溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「いい加減にしろよ! 彼女に失礼だろ!」
「生吹。あなたこそいい加減にしなさい。いつまでも瑠璃さんをお待たせして。ああ、こうしちゃいられないわ。私、出かけるところだったのよ」
「どこに行くんだ、話はまだ終わってない」
ソファを立つ彼女を追いかけて、瀬戸くんがドアを出ていく。ひとり残されてぽかんとしてしまった。
人の気配が消えた応接間に、和風庭園の静けさが入りこんでくる。フローリングから見える苔と白玉砂利の中庭は、四方をガラス窓に囲まれた完結した世界だった。水を止められた鹿威しさえ、威風堂々と佇んでいる。
いったい、なんなの。
台風が通過したみたいに頭の中がごちゃごちゃだ。でもひとつだけ、理解できたことがある。
私は瀬戸くんの母親に見下されたのだ。
多少は腹立たしいけれど、家の様子を見回してやむを得ないかなと思った。
都心の一等地で何不自由なく育った瀬戸生吹と、千葉の田舎で育ち奨学金をもらって大学に通っていた私とでは、育った環境が違い過ぎる。むしろ絶対数から言えば私のほうが一般的で、瀬戸生吹のほうが特殊なのではないだろうか。
「へえ、兄貴が女を連れてくるとはね」
いきなり声がして心臓が跳ねた。
振り向くと、応接間の入り口に長身の男の人が立っている。肩までありそうな長い前髪を左右に流し、後ろ髪をひとつに結んだ、わりと整った顔立ちをした若い男性だ。