溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「あなたは……」
「瀬戸大樹(だいき)。生吹の弟」
短く答え、私を観察するように目線を上下に動かす。
「ふうん」と含みを持たせるようにつぶやくと、彼はさっきまでお母さんが座っていた場所にどかりと腰を下ろした。
ゆったりとしたTシャツで隠しているけどだいぶ細身の体型で、身長はお兄さんよりも高そうだ。輪郭や鼻の形が瀬戸くんに似ている。でも切れ長の目は杏子さんにそっくりだった。
「瀬戸くんと同じ会社に勤めている、西尾です」
私が頭を下げると、大樹くんはふっと表情を崩した。
「そこは、生吹とお付き合いしている――って自己紹介するところじゃないの?」
鋭い指摘にぎくりとする。付き合っている意識がなかったせいで、中途半端な挨拶になってしまった。私はいまだに自分が置かれている状況がわからない。
「狐につままれたって顔してるね」
「そんな、ことは」
すべてを見透かすような視線から、目を逸らした。
瀬戸生吹の弟。彼がどんな人間なのかわからないと、受け答えのしようがない。瀬戸くんにとって良い存在なのか、悪い存在なのか。
「会社の同僚ってことは、うちのことは聞いてなかったのかな。兄貴は家のことをあまり口にしたがらないから」