溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


鋭くて、それでいて怜悧な目だった。私の顔色を素早く読み取り、薄く笑う。

「家っていっても、そんなたいしたものじゃないけどね」

「さっき、お母様が旧華族のご出身だって……」
 
あまりにも自分からかけ離れた言葉だったから、いまだにピンと来なかった。華族なんて言葉は小説や歴史の教科書でくらいしか見たことがない。

「出身っていっても、もう実体はないよ。母親の曾祖父が日清戦争で功績を上げたとかで爵位をもらったらしくてね」
 
その一番下の娘、瀬戸くんの曾祖母にあたる四女が嫁いだ先は、戦後の混乱期に一時的に財を成した男性のところだったという。

「でも主流には入れてもらえなくてさ。つまり華族っていっても何世代も前の時点から傍流で、たいしたことはないんだよ。でも母はプライドが高い人だから、兄貴や俺の結婚相手に家柄を求めるんだよね」
 
某自動車メーカーの重役の娘だとか、政治家の娘だとか、と言って彼は右の指を折っていく。

「兄貴がこれまでにお見合いさせられた相手。もう三十人くらいと会ってるかな。本人は嫌がってるんだけど、義理で会わざるを得なくてね」
 
口が開いたまま塞がらなかった。お見合いを三十回? 

< 85 / 205 >

この作品をシェア

pagetop