溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「俺も、来年、二十五になったら見合いラッシュだよ」
 
ははっと他人事のように笑い、彼は思い出したように言う。

「あ、俺これでも美大生でね。今は院に通いながら日夜油絵制作に勤しんでるんだ」
 
瀬戸くんと違って、大樹くんは学生特有のモラトリアム期間を楽しんでいるらしい。だからなのか、彼には余裕があるというか、物事をどこか引いて見ているような印象が見受けられた。

「あの、瑠璃さんっていうのは……」
 
瀬戸くんのお母さんがしきりに口にしていた女性の名前を出すと、大樹くんは「ああ」とつぶやき、面倒そうにソファにもたれた。

「篠宮瑠璃(しのみや るり)は母が懇意にしてる政治家の娘で、一応、俺たちの幼なじみかな」

「瀬戸くんの婚約者なんですか?」

「んー瑠璃のほうが兄貴を好きでね。兄貴がお見合いさせられてるのに気づいて、自分で名乗りをあげたというか。まあ彼女も婚約者候補って感じ。幼なじみなぶん、一番の有力候補かな」

「そう、ですか」
 
正直、遠い世界の話すぎてついていけない。家柄とかお見合いとか、田舎でのんびり育ってきた私にはまったく縁のない言葉だった。まさか、瀬戸くんがそんな世界で暮らしていたなんて思いもしなかった。

「そのへんの事情、全然聞かされてなかったんだね」
 
ガラステーブルに身を乗り出して、大樹くんが私の顔を覗きこむ。どきっとして身体を引いた。

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