溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
この人に近づかれると、なぜだか身体がこわばる。一見笑っているようでも目だけは常に冷静で、人の弱味や粗を探しているように思えた。
「光希、悪い」
瀬戸くんがドアをくぐって戻ってきた。ソファで向き合う私たちに気づき、目をまたたく。
「大樹、いたのか」
「ああ。兄貴にこんなきれいな婚約者がいたなんて知らなかったよ」
不穏な気配を跡形もなく引っ込めて、弟くんはにっこりと微笑む。
「可哀想に。瑠璃はこれでもう絶望的な状況ってわけだ」
瀬戸くんが嫌そうに眉をひそめた。
「ふざけたこと言ってないで、お前大学で瑠璃に会ったら伝えておいてくれよ」
「やだよ。兄貴が自分で言うべきだろ」
「もう何度も言ってんだよ」
兄弟のやりとりを所在なく眺めていると、瀬戸くんがはっとしたように私を振り返った。
「光希、待たせてごめん。帰ろう」
「え……帰るって」
「しばらく光希の家に泊めてくれないか」
よく見ると、瀬戸くんの足元にはハイブランドのボストンバッグが置かれていた。
「認めてもらえるまで、ここには帰らないことにしたから」
強く言い放つ瀬戸くんを、その弟は、うっすら笑みを浮かべて見ていた。