溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
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「うちの母親はとにかく管理したがる人でさ」
帰り道、西日の差す通りを歩きながら、瀬戸くんはぽつぽつと家のことを話してくれた。
子どもの頃から親の言う通りに生きてきたこと。瀬戸くんが自由に何かを選び取れることはなく、学校も友達もすべて母親が選んできたこと。
成長とともに頭をもたげ始めた自我をどうにか抑えながら、有名私立の初等部から大学までをエスカレーターで進んできたこと。
「高校くらいからはもう母親のことが嫌で嫌で仕方なかった。自分の将来は自分で選びたいのに、学校も学部も、付き合う相手にも口を出してきて」
そこまで言ってから気づいたように私を振り返り、彼は「けど」と付け加える。
「付き合うっていっても、まともな恋愛なんてほとんどしたことがなかったよ。だいたい母親に邪魔されるか、母親に恐れをなして彼女が逃げるかで」
夏の気配を残した湿った風が、頭上の枝を揺らしていく。アスファルトに影を伸ばしながら、瀬戸くんは優しげに表情を崩した。
「光希のことは、入社したときから大人っぽくてきれいな子だと思ってた。芯のある性格だって分かってからは一気に気になる存在になって……いつからか想像してたんだ」