蛇の囁き




「他にも言い伝えがある。抜け殻があったらそれを財布に入れておくといいとか、夢の中で白蛇さまに会うと幸運が訪れるとか。まあ、色々あるんだ。ともかく──君が合格するのを祈っているよ」


 カガチさんはにっこりと太陽のように微笑んで頭を撫でてくれた。

 神職ということを聞いた後だと、何か御利益がありそうな気もしてくる。

 ありがとうございます、と言うと、カガチさんはひらひらと手を振って去っていこうとする。

 その背中に「カガチさん!」と声をかけた。


「また明日、来ていいですか」


 彼は振り返った。

 ガラス細工のような透き通ったその瞳は、太陽の光を集めてルビーのように輝いたように見えた。あるいは燃える紅葉。その虹彩にこの世の全ての赤を閉じ込められたようだ。

 もっと、もっと近くで覗き込んだら、どんなに綺麗だろう。想像するだけで、身が震えるような心地がした。

 しばらくして、カガチさんは口を開いた。

「もちろん、いいよ」

 私は嬉しくなって顔を綻ばせた。しかし、それでは足りず、私は自分でも何故か分からないまま思い切って言った。


「明後日も、カガチさんに会いに来てもいいですか」


 彼は虚をつかれたように目を見開いた。

 透き通った湖の如き瞳の奥をじっと見つめて、私はただ待った。待つことは苦ではなかった。

 その睫毛の陰が差した瞳は琥珀色だった。

 彼は微笑んで、「待ってるよ」と言った。

 その微笑みを見て、私は彼は一体何歳なのだろうかと思った。



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