蛇の囁き



 それから一週間ほど経ったが、加賀智さんはあいかわらず己の事を殆ど話してはくれなかったが、その代わりに山を案内してくれた。

 今まで山は木ばかりと思っていたが、竹林、何故か山の中に打ち捨てられたオートバイ、古井戸、廃屋、防空壕、そこをねぐらにする可愛らしい小動物たち、美しい草花──生まれて初めて見た光景が沢山あった。

 彼だけのお気に入りの場所にもたくさん連れて行ってくれた。

 加賀智さんは日が落ちる頃には、必ず私に家へ帰るように言った。

 前に私が一度だけ、もっと一緒に話したいと言ったことがあったが、夜の山は危ないからと言って彼は首を横に振るばかりだった。だから、私は毎日朝早くここに来ていた。

 仕事の邪魔にならないかと尋ねたが、今は休みだからと言って、彼は毎日私に付き合ってくれた。



 今日はとても綺麗な湧き水が出る泉に連れて行ってくれるという。

 山の途中まで階段で降りると、加賀智さんはまた脇道に逸れて杉の木が聳える緩やかな斜面を下り始める。

 落ち葉で滑らないように加賀智さんに慎重についていく。

 私はここに来て動きやすく平たい靴で来れば良かったかと思った。





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