蛇の囁き




 ごちそうさまを言って二人で片付けた後、そこで腰掛けたまま語らった。

 いつものように、私が家族や友人のことや学校のことを話して、彼がそれを聞いて質問する。

 話が途切れて沈黙になって、見つめ合って、私は尋ねた。



「加賀智さんは、恋人はいないの」



 聞いたそばから恐らく答えてくれないだろうと思った。

 答えよりも、その質問にどんな反応をするかが気になった。

 いつも加賀智さんは質問しても答えてくれないことが多い。

 困ったように笑ってはぐらかし、同じ質問を私に返す。

 意地悪で答えてくれないのではないとはいつも感じてたので、理由は気になったがどうしても追及することができなかった。

 だから今回も、きっと答えてくれないだろう──そう思っていた。



「……いないよ」



 えっ、という言葉を飲み込み、私は目を見開いた。

 毎日私に付き合ってくれているから、恋人はいないのかもしれないとは思っていた。しかし、その事実よりも質問に答えてくれたことの方が意外だった。

 最近好きな子が出来たんだ、と加賀智さんは穏やかに言った。

 一体誰だと思う、と彼は私に尋ねた。

 穏やかな口ぶりと表情とは裏腹に、瞳は熱が篭っていた。熱で揺らめくその瞳にはただ私だけが写っていた。

 心臓が期待に騒ぎ始める。
 そんな眼差しを向けられて気づかない人がいるのだろうか。


「夏芽、」


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