蛇の囁き
足元で起こった風が絡みついてくると、それに追い立てられたように性急な口付けに変わった。
口の中で彼が逃げる私を追いかけ、あちこちに這い回って私を捕まえて遊んだ。
いつも理知的で穏やかな彼は何処に行ってしまったのだろう。その激しさに溺れてしまいそうで、私は浅い息を繰り返しながら彼の背に腕を回した。
次第に息苦しいばかりでないと気づいた私は、途中から理性が溶けて訳が分からなくなり、あれこれ考えるのをやめた。私たちはただお互いを感じ求めるだけの動物のようだった。
唇が痺れ、口の中が痺れ、頭の髄が痺れ、体の髄を何かが突き抜けていったそばから、肩から、腕から、唇から、舌から、全身から力が抜けていった。
ああ、これはきっと弛緩性の毒だ。
彼は、毒蛇だ。
このまま毒で冒され、じっくり溶かされ、頭からまるまる食べられてしまうのも良い。
息も絶え絶えになり、彼に身体を預けながらそう思った。
再び足元で強い風が起こる。
口の端に少し垂れたものを舌で舐められて、私の口を深く犯していたそれは今度こそ名残惜しく離れていった。
そっと目を開けると、首から顔半分を覆う白い鱗が目に入った。
その鱗を恍惚として辿ると、目と目があった。彼の瞳は爛々と輝く紅色をしていた。