蛇の囁き
「……加賀智さん。一年、待っていてくれますか」
私は彼の瞳に尋ねた。
東から日が昇り、西に落ちる。これを一とする。夜には直ぐにでも逢いたい気持ちが私を苦しめるだろう。そして、睫毛を濡らしたまま眠りにつく。
また日が昇り、日が落ちる。毎日恋情を募らせながら、彼も待っているのだと涙を堪え、これを二と数える。
それを来る日も来る日も繰り返す。
加賀智さんは、うん、と頷いてくれた。
だから私は精一杯笑う。
しかし、笑顔が得意のはずの彼は笑顔ではなかった。笑ってくださいと私が言うと、彼はぎこちなく口角を上げた。
「……夏芽。俺は境内できっと待っているから、だから来年も石階段を走って上がって逢いにきてくれ。そうしたら、あの場所から村を眺めて陽が沈むまで二人で話そう。来年こそは、夏芽が望むまま何でも答えるよ」
私はその言葉に何度も頷いた。
不意に涙が溢れそうになって、俯いた。笑ってくれ、と加賀智さんは穏やかに言う。だから、私は顔を上げて思いっきり笑った。