蛇の囁き
その時、目を開けていられない風がにわかに起こった。
目をそろりと開けてみると、加賀智さんの後ろに三人の妙齢の女性が寄り添うように立っていることに気づいた。恐らく山神だ。彼女たちは眦を怒らせて此方を睨みつけていた。
加賀智さんは、山神たちを嫉妬深いと評していた。この風も、彼女たち山神が起こしているものだろう。
私は風に飛ばされそうになりながら、静かに両の手を合わせて祈った。
──お願いします、山神様。一年に一日だけ、恋しい人と会うことをお許しください。
“良いだろう、人間の子よ”
“ただし一年に一日だ”
“二日と足を踏み入れたなら、その時は──”
山神の感情の高まりとともに、一層風が強くなる。私は最後まで彼女たちの声を聞くことができなかった。
息もできないほどの風圧に、浜に打ち上げられた魚のように空気を求めて喘いだ。首元を絞められるような苦しさで、徐々に視界がぼやけていく。
何が起こっているか分からないまま、私はいつの間にか地面に臥せているらしかった。
ああ、視界が暗くなってゆく。