蛇の囁き



 目が覚めて、あれ、と首を傾げた。気を失っていたようだ。

 立ち上がり、訳も分からず辺りを見回すと、そこは見覚えがある場所であると気づいた。

 神社のある山の入り口にある鳥居の柱に背中を預け、私は座っていたらしかった。

 何故私はこんな所にいるのだっけ。茫然と立ち尽くしていると、加賀智さん、と無意識にその名が口からついて出てはっとした。


「加賀智さん……!」


 ぐるりと辺りを見回したが、蛇神の姿は決して見当たらなかった。当然だ。呼んでも無駄だということは分かっていた。もし彼が近くにいたとしても、今年はもう私の前に姿を現すとは思えない。

 頭で分かっていても直ぐには割り切れなかった。

 唇を噛み、私はとぼとぼと帰途に着いた。

 村に流れるひどく緩やかな時間を感じるたびに、もしかして先ほどまでのことは全て白昼夢だったのではないかとぼんやり思い始めていた。



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