蛇の囁き







「あら、ナツ。そんなの持ってた?」

 祖父母の家に戻ると、夕飯を作っていた母が私の首元をじっと見ながら首を傾げた。

 私も何だろうと思って自分の首に手をやると、何が紐のようなものが首に提がっていたのに気づいた。

 ネックレスなど付けていなかったのに──そう思ってよく見てみると、その紐に通されていたものは、桜の花びらのような白いものだった。

 まさか、と私は息を呑んで、その白いものを震える指先で触れた。



(これは──鱗だ。ああ、夢なんかじゃない……)



 加賀智さん、加賀智さん、加賀智さん──。


 想いの奔流で感情の蓋がいとも簡単に流される。突然ネックレスを握り締めて声をあげて泣き出した私を、母は「どうしたの!」と目を丸くしながらも強く抱き締めてくれた。

 全ては現実だった。

 彼が現実の存在であったことに何より安堵していた。

 夢でないのだから、一年経てばまた会える。
 その時の私は歓びの涙を流した。




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