蛇の囁き



 加賀智さんは難なく私を受け止め、息が詰まるほどに強く強く抱き締めてくれた。

 そして、彼は私の髪を掻き上げて左耳に掛けると、露わになった耳に口付けて、夏芽、と低く掠れた余裕のない声で私を呼んだ。


「ずっと、待ってたよ。こんなに長い一年は初めてだった」


 ああ、苦しかったのは私だけではなかったのか。

 この日を待ち焦がれた一年、私の心はぼろぼろになって渇ききっていた。だというのに、今こうして目を瞑って加賀智さんの低い体温を感じているだけで、みるみる心が満たされていくのを感じていた。


「──おいで、夏芽。あの場所で一緒に日の出を見よう」


 そう言った加賀智さんは、いつかのように穏やかに微笑んで、私の手を引いて歩き出した。私は涙も拭うのも忘れたまま、はい、と頷いて彼の手を強く握り返した。

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