蛇の囁き
彼が千年生きているとして──まるで実感が湧かない。人間には想像もつかない時の流れだ。
人と人ではないものが共に同じ時間を生きることが出来ないのは至極当然のことだと思った。
私が毎年彼に会いに来たとして、いつか私は彼の外見の年齢も通り越し、醜く老いて死ぬのだろう。それでも、彼は歳を取ることもなく、出会った時の若々しい姿のままで生き続ける──。
「蛇だった時の記憶は微かにしかないけど、俺はずっとこの山で生きてきた。この山と麓の森付近以外には出られないんだ。……次第に、人間がこの土地を拓いて村を作って住みつくようになっていた。人間のふりをして、人間と関わったこともあったよ。でも人間は気づいたら死んでいるから、詰まらない存在だと思っていた」