蛇の囁き
私は彼が懐かしそうに話すのを黙って聞いていた。
「神と人間の時の体感時間は違うんだ。人間のような体感時間を持っていたら、永遠に生き続ける神は確実に気が狂ってしまう。生まれてからの千年はあっという間だったんだよ。だけど……夏芽と出会ってからのこの一年は信じられないほど長かった。一日が長くて、まるで針の筵に座る心地だった」
気が狂うという言葉に、私はひやりとしたものを感じた。
人間である私を愛し、同じ時を歩むことを望んだばかりに、彼は神にして人間の濃密な時間の体感を得てしまったのだ。
「一緒に生きていく方法は、無いのですか」
「……」
「これからずっと、短い一日のために、長すぎる一年を過ごさないといけないのですか」
「…………」
加賀智さんは苦しそうな顔をして押し黙ってしまった。
はっとした。私は彼の表情を見て、自分が彼に対してどんなに酷いことを言ってしまったのか気づいて後悔した。
小さくごめんなさいと謝ると、彼は押し黙ったまま、深海のような眼差しをして私の頭をそっと撫でた。