あなたのそばにいたいから
3日後、私は社長室に呼ばれた。

「失礼いたします。広報部の小林です。」

「はい、どうぞ。」

中に入ると、社長のほかにうちの課長と人事部長がいた。

「社長室まできてもらって悪かったね。」

にこやかに社長が声をかけてくれた。

「いえ。」

「君は、この間、私が言ったことを覚えているかね。」

「あっ、はい。『私もこのまま君を辞めさせるのは本意ではない。
あと2か月我慢してくれないか。』っておっしゃった件ですか。」

「あぁ、そうだ。今日はそのことで君に提案をしようと思ってね。」

「はい。」

「実は、友行くんの開発した商品をアメリカで売り出したいって話が来ている。」

「えっ、すごい。
私がプロモーションに関わった洗剤と専用スポンジのセットですか?」

トモが研究段階で苦労していたことが分かっていたから、
その話を聞いて、社長も人事部長もいるというのに私の声は弾んだ。

「あぁ、そうだ。アメリカでの販売は当然、
わが社と提携関係にあるSG社だ。
すなわち、友行くんが技術研修に行っている会社だ。
君は留学経験があって、英語が得意だし、
SG社とわが社の架け橋になってみないかね。
君はまだ退職関係の申請書類を提出したわけではないから、
社員として、出向という形で行くこともできる。
ただ、社員ということになれば、
業務の関係で希望した期間で仕事が終了するわけではない。
そのまましばらくアメリカに残ってくれということだってあるだろう。
社員として関わる方法もあれば、フリーの契約で関わる方法もある。
もちろん、友行くんの奥さんとしての生き方を優先することもできるだろう。
考えてみてくれたまえ。」

思わぬ社長からの提案に涙がこぼれた。涙声で

「ありがとうございます。」

と答えた。

「友行くんのところに行きたい気持ちもわかる。
わが社にとっては、君も友行くんも大事な存在だ。
よく考えて納得いく答えを出してくれ。」

ここ最近の私の元気のなさを知っている課長は
にっこり笑って私の顔を見ていた。

「はい。ありがとうございます。」

「急に呼び出して悪かったね。仕事に戻ってくれ。」

そう言われて、社長室を後にした。

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