偽りのヒーロー



「……別に菜子のせいじゃないだろ。菜子の母さんは……残念だったとは思うけど……」



 小さな紫璃の言葉に、未蔓は笑みを浮かべていた。ポテトを置いた、トレイの紙の上は、油ではない丸い雫が点々と作られていて、レオは必死に声を抑えていた。



「俺もそう思うよ。菜子はばかだなって。どう考えても菜子のせいなんかじゃないからね。でもどうだろう。それまで見てた母親が、どんどん痩せていくのって」

「……」

「菜子と楓って、歳離れてると思わなかった? あ、楓って菜子の弟ね。子ども、なかなか授かれなかったみたいだよ。でも薬で治療したら、もっと妊娠の確立が下がるって、うちの親が言ってた」

「……」

「菜子はばかだ。でも優しいんだ。弱さを必死に押し殺して、強くなろうとする人の手を、俺は振り払ったりはできない」



 未蔓の真剣な眼差しは、レオの嗚咽で台無しだ。未蔓は笑みを浮かべていたが、紫璃は笑うことができなかった。

この幼馴染という名ばかりの、二人の強固な絆に、自分は割って入ることができるのだろうか。




 ——愚問だ。

今、菜子の近しい人物の話を聞いて、尚更引くわけにはいかなくなった。油断している隙に、いとも簡単に菜子の隣を当たり前のように持っていきそうな未蔓を、揺らぎない視線が捉える。



「……じゃあ、俺が菜子の隣に居てもいいわけだな」

「まあ、今日彼氏ができなかったら、の話だろうけど。いいんじゃない」



 飄々とした未蔓の態度が、紫璃には気に食わなかった。何でも知っているふりをして、平然と傍にいる。




 カバンを掴むと、紫璃は一人店を後にした。その背を引き留めることなく、未蔓はぼうっとレオに視線を移して。



「レオはいいの、帰んなくて」

「お、俺はそんな話聞いたところで優しくしたりしねえぞっ。大体、俺今菜子と喧嘩中だし……」

「喧嘩してることすら忘れてるんじゃない」



 頭をぐしゃぐしゃとかき回して声をあげるレオを、可笑しそうに未蔓が笑う。




 風ひとつない外の景色は、うす暗い空に星の欠片を落として、ゆらゆらと揺れていた。




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