偽りのヒーロー
4月も半ばになると、間の前に控えたゴールデンウィークももう間近。
受験のための補講の説明や、進学クラスらしく、進路調査票。週に3回あった体育は、週2回に減っていた。
比べて専門・就職クラスは週に3回あるらしい。選択授業の美術や音楽、家庭科なんかも時間割から姿を消して、受験一色になろうとしていた。
とはいっても、この時期はまだ補講は週に何度か。
バイトよろしく自分でシフトみたいに時間割を組んで、放課後の方に臨む。補講のない日はバイトをして。
それでも紫璃と言葉を交わすことはなかった。自然消滅ってこんなものなんだろう。
次第に、恋愛というキラキラしたものにあるはずの、希望は持たないようになっていた。
菜子と比べて、小学3年生になった楓は絶好調のようだ。
相変わらず、ユズ、ウメちゃんと知った顔ぶれが家に遊びに来ていたが、新しく見る子も何人もいた。
弟の好調さに嫉妬しながらも、過ごしていたある日。
せかせかとバイト先へ行こうと、帰り支度をしていた菜子。
たまたま廊下で鉢合わせた元クラスメイトと話し込んでしまって、思っていたより時間をくってしまった。
「葉山さん」
女の子の声で、低いトーンで呼び止められて、菜子は下駄箱の前で足を止めた。
顔を見上げれば、そこにはニヒルな笑顔を浮かべた女性が立っている——確か、名前は、櫻庭……芹那(さくらば せりな)。
紫璃に、修学旅行のときに告白してきた子だった。
後からわかったことだったが、紫璃とつき合った、もとい一線を越えたことがあるらしいけれど。
菜子とは同じクラスになったこともなければ、それほど親しいわけでもない。何の用事かと問えば、にんまりと口角をあげていた。