空の下の笑顔の樹
第三章 いつまでも笑顔で
   第三章 いつまでも笑顔で

 心を入れ替えたあたしは、勉強にも励み、高校卒業後、看板製作会社に就職して、地道に働いてお金を貯めて、二十八歳の夏、中学生の頃から描き続けてきた夢を実現させた。
 
 ふんふん♪ ふふふん♪ ふふふふふーん♪

 今日は、あたしと真奈美の駄菓子屋の開店日。自然と鼻歌にも力が入る。

 お店の場所は、秘密の丘まで歩いて十分の所。お店の内装は、小さな子供からお年寄りの方まで、男性でも女性でも、誰でも気軽に立ち寄れるような明るい雰囲気の内装。庇の上には、大きな看板。お店の前には、あたしと真奈美の手作りの樹のベンチ。営業時間は朝の十時から夜の七時まで。定休日は毎週月曜日。水曜日はレディースデー。金曜日はチャイルドデー。日曜日はシニアデー。
 あたしと菓絵さんが大好きな五円チョコ。森川先生も大好きなチョコっと太郎。真奈美が大好きなつぶつぶ太郎。お父さんが大好きなぼーぼー太郎。お母さんが大好きなもちもち太郎。優太さんが大好きなうまい棒。よっちゃんいか、ふ菓子、お煎餅、クッキー、ビスケット、チョコレート、飴玉、ガム、水飴、キャラメル、ラムネ、ヨーグルト、ミニラーメンなどの昔ながらの駄菓子。コーラ、サイダー、オレンジジュース、コーヒー牛乳などのドリンク類。チョコっとアイス、アイスモナカ、あんず棒、チューチューアイス、カキ氷、ソーダアイス、バニラアイスクリームなどのアイス類。おはじき、めんこ、コマ、ベーゴマ、ビー玉、お手玉、けん玉、ヨーヨー、折り紙、ゴム風船、紙風船、水風船、水鉄砲、銀玉鉄砲、シャボン玉、花火、スーパーボール、カラーボール、プラスティックバット、野球カードなどのおもちゃ類。あたしと真奈美とで作った、駄菓子クレーンゲーム機、駄菓子釣り堀。スケッチブック、自由帳、お絵描き帳、筆箱、鉛筆、色鉛筆、シャープペンシル、プッチンペン、匂い付き消しゴムなどの文具類。あたしと真奈美とで考案した、手作りのチョコっとふっくらパンとつぶつぶたこ焼きパン。香ばしい香りの焼きとうもろこし。ピカピカの観光バスのミニカーが三百台。寒くなってきたら、焼き芋とおでんとチョコっとシチューを販売しようと思っている。
 
 お店の広さは畳八畳分くらいしかないけど、いろんな商品が所狭しと並べられている。開店の準備は万端。

「真奈美、お客様の前で叫ばないでね」
「いくらなんでも叫ばないよ。つぶつぶ太郎、観光バス、ばんざーい!」
「おもいっきり叫んでるじゃん」
「お姉ちゃんの緊張をほぐすためだよ。お客様の前では絶対に叫ばないから安心して」
「本当だね」
「うん。本当だよ」
「お店の名に恥じない笑顔でお客様を迎えるのよ」
「うん! 笑顔で迎えるね!」
「それじゃあ、シャッターを開けるわよ」
「うん! いよいよ開店だね!」
 あたしは菓絵さんの麦わら帽子を被り、真奈美は駅前の商店街の帽子屋さんで買った麦わら帽子を被り、二人の手で駄菓子屋のシャッターを開けた。
「いらっしゃいませ。本日は、大変多くのお客様にご来店いただきまして、心より感謝申し上げます。私たちの駄菓子屋の名前は、庇の上の看板に書かれているとおり、空の下の笑顔の駄菓子屋です」
「みなさん、こんにちは。ようこそお出でくださいました。昔ながらの駄菓子やおもちゃを存分にご堪能ください。姉妹二人三脚で頑張って参りますので、どうぞよろしくお願い致します」
 開店の挨拶を終えたあたしと真奈美は、大勢のお客様に向かって頭を下げた。

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち! 

 鳴り止まない拍手。どのお客様も笑顔で拍手を送ってくれている。多くの方々の支援があって、この瞬間を迎えられた。あたしは嬉しさのあまり感極まって、泣きそうになってしまった。あたしと真奈美の駄菓子屋の名前は、空の下の笑顔の駄菓子屋。自分で言ったとおり、お店の名に恥じない笑顔でお客様を迎えなければならない。

「盛大な拍手をありがとうございました。それでは只今より開店致します。本日は大変混み合っておりますので、お客様は二列に並んでいただいて、先頭のお客様から順番にご入店ください」
 あたしはオレンジ色のカゴを持って、真奈美は青色のカゴを持った。
「いらっしゃいませ。このカゴをお使いください」
「美咲ちゃん、真奈美ちゃん、開店おめでとう」
 空の下の笑顔の駄菓子屋の最初のお客様は、優太さん。
「美咲、真奈美、いっぱい買ってやるぞ」
「私も買いまくるわよ」
 二番目のお客様は、あたしと真奈美のお父さんとお母さん。
「美咲さん、真奈美さん、みんなで買いに来たわよ」
 三番目のお客様は、森川先生と菓絵さんのお絵描き教室に通っていた方々。
「美咲ちゃん、真奈美ちゃん、僕たちの分まで頑張ってね」
 四番目のお客様は、みんなの駄菓子屋さんを経営していたおじさんとおばさん。
「美咲、真奈美ちゃん、私たちも応援するから頑張ってね」
 あたしの友達も真奈美の友達も小さな子供もおじいさんもおばあさんも、笑顔でカゴを受け取ってくれる。
「五十人乗りの観光バスのミニカーはいかがですか。五十人乗りの観光バスのミニカーはいかがですか。五十人乗りの観光バスのミニカーはいかがですか。一台五百円ですよ」
「三台ください」
「お買い上げ、ありがとうございます」
 お客様の明るい笑顔を見ていると、自然と笑顔になれる。心が温かくなってくる。頑張ろうという気持ちになれる。

 菓絵さん、あたしと真奈美の駄菓子屋はどうですか。おかげ様で繁盛しています。一日でも長く続けていこうと思っていますので、温かく見守ってくださいね。





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